第9話 カイゼンかカイカクか
2012年9月25日
最近、カイカク(改革)の文字を多くのビジネス誌やビジネス本で拝見する。
多くの論調はカイゼン(改善)はダメで、改革でないと21世紀は生き残れないとの御託宣である。
先日ある会合で、「改善と改革はどう違うか」が話題になった。
・効果が少ないカイゼンが改善で、多いのが改革とか
・少しのエネルギーでカイゼンするのが改善で、多いのが改革とか
・オペレーションの方法のカイゼンが改善で、体制を変更するのが改革とか
・そこに従事する人々の意識が少ししか変化しないのが改善で、180度も変化するのが改革
等々の多くの意見があったが、大別すると上の4項目にしぼられる様である。
1970年代の初め、鈴村主査(当時)は私に次のように教えた。
「 現場の改善にはいくつかのステップがある。
まず、現場でスグにムダを見つけて改善するのが第1ステップの改善である。
この場合のムダはほとんどが、動作のムダや、在庫、仕掛けのムダである。
この場合、効果は少ないし、しっかりと訓練や、ルールを作って守らせないと、また元に返ってしまう。
例えば、仕掛りを減少させて、これを守らせようとすると、ルールを新しく作って、それを順守させなければならない。
順守させるルールの1つが後工程引きというルールで、トヨタではカンバンやゴルフボールを道具として使っている。
これは第2ステップの改善で、俺は仕掛けの改善と言っている。
この仕掛けの改善を原材料から出荷まで継ぐと、前工程は出荷に応じて生産する方法に変更しなければならない。
これが第3ステップの改善で、俺は仕組みの改善と言っている。
この仕組みの改善がこれからの改善の主体になるヨ。 」
「 カイカクとか、カクシンとか世の中では言っているが、本当に仕組みの改善をやるとすれば、
まず第1ステップで改善の心を養い、
次に第2ステップの工程と工程のツナギ(継ぎ)の改善で、改善のレベルアップを実践し、
最後に工場全体、会社全体が一本の綱の様につながった改善にすれば会社は儲かるヨ。
改革とかイノベーションとかの言葉に惑わされるナ。
まずは実践することダ。 」
あれから40数年経過した。
この仕組みの改善はセンチュリーの100万円のコストダウン、カローラの生産準備期間の1/3短縮に応用し、
現在では県庁の改善にま で拡大している。
ホワイトカラーの改善も同様にステップ1、ステップ2、ステップ3と展開すれば大きな改善効果が生ずるハズである。
岩手県庁の改善では第1ステップ、第2ステップの大きな目標を達成したため、第3ステップには入らなかった。
この第1ステップ、第2ステップの改善をベンチマーク型の改善と呼んだ。
(詳細は拙著『トヨタ式ホワイトカラー革新』日本経済新聞出版社)
第3ステップは仕組み(体制)の再構築であるため、システム再構築型の改善と呼んだ。
第3ステップは意識(Mind)の改革が必要である。
意識改革のために第1ステップ、第2ステップがあると言える。
第1ステップ、第2ステップは手法の習得だけではなく、むしろ意識改革の養成期間でもある様だ。
もし第1、第2ステップを意識改革なしで、手法の習得のみを目的とすれば、手法を体で覚えていないため、応用問題が解けない。
(海外では多くのTPS修了者にこの現象が見られる)
日本の製造業は海外同業種と比較してみると、製造直接原価はそう負けていないが、総原価では負けている場合が多い。
私の体験でも、日米比較でしみじみと負けを味わった。
はっきり言えば間接員(ホワイトカラー)が多いのである。
今から100年以上も昔、W.テーラーは当時のアメリカのマーケットの状況から、工場の人員を直接員だけでなく、
計画、調達、標準、検査等のスタッフを投入することで、より高い生産性向上を図った。
戦後その考え方が日本にも導入された。
当時はアメリカと同じく日本市場は右肩上がりの状況であった。
今日、日本のマーケット状況は一部の変動はあるとしても低落の傾向にある。
今こそ総原価の低減、ホワイトカラーの低減を実践すべき時期だと思う。
特に中小製造業は製造とホワイトカラーの両方の改善を実践することにより、次の展望が開ける。
カイゼンだ、カイカクだと議論する前に、まずカイゼンの実践をやりましょう。
(近藤哲夫)
第8話 内か外か・・・内製か外製か
2012年9月11日
最近、円高で国内工場を海外に移転するニュースが数多く聞こえてくる。
1987年~91年頃、多くのメーカーが海外進出した頃も、一時円が80円台(対ドル)になって大騒ぎした。
当時私はあるメーカーの常務をやっていて、担当は技術と海外であった。
私の常駐基地はシンガポールで、月に一度は日本に帰り、取締役会に出席していた。
シンガポールでは多くの日系の経営者と仲間になり、色々勉強する機会を得た。
その頃の話題の1つがこの「内か外か」である。
当時(今でも同じだが)日本では円高と加工人件費が高くなり、より安い賃率を求めて、海外へと工場移転が流行した。
各社の仲間達から度々相談を受けた。相談の内いくつかを取り上げてみる。
質問1) 海外移転は会社全体として儲かるか。
海外移転のケースを考えてみると
ケース1. 材料を日本で調達、加工を現地、日本で販売
この場合、見かけの製造コストは低減する。
しかし、日本→現地、現地→日本への物流コスト、及び管理コストは高くなる。
現地工場は見かけ上黒字になるが、物流、管理コストの 上昇で、会社全体として儲かるかどうか不明である。
特に管理コストは、管理人件費・通信費等が会社の間接費のどんぶりの中に入っているとますます不明になる。
ケース2. ケース1の日本販売を他国に置き換える
当時は、マレーシアで造って、インドネシアで販売するケースが多かった。
マレーシアの生産のインフラが良かったようだ。この例も、物流コスト、管理コストを計算しないと
儲かるかどうか不明である。
ケース3. 現地生産、現地販売
これは工場の大きさを、その現地のマーケット規模に合わせるとほぼ儲かる(ただし日本人の管理者は少数で)。
しかし、工場はマーケットの規模に応じて拡大していくようにしないと、日本人が必要以上に増加する。
(多くの場合、自働化等の技術員)
結果、余り儲からなくなる。
例えば、私が居たタイの工場では、建設当初は空きスペースを多く造り、需要に応じて設備を増加し
また技術員の現地化をはかった。
質問2) 工場の海外現地化を進めていく上で、特に日本で準備すべきことは何か。
海外工場が1つか2つの場合は余り問題にならないが、3つ以上に複数化すると、日本側に海外工場向けの世話役や
アドバイザー、TOPからの指示・伝達等の窓口業務部門を設置する必要がある。
さらに最近は、日本国内、海外同時に新商品の生産、販売のチャンスが増加している。
この場合、その新商品の技術、生産のアドバイザーとなる工場を明確にする。
私はこの役割を担当する国内工場を“マザープラント”と呼び、そこの工場長以下技術スタッフは
海外工場のアドバイザーの役割を与えた。
海外工場のTOPが日本人であれば、日本の方を向いて仕事をするのはしょうがない。
そのためにも窓口部門とマザープラントを明確にすべきである。
TOPの現地化は避けて通れない。その為にはどのようなトレーニングと処遇をするか。
多くの日本企業は、北米、EU、アジアでTOPの現地化にトライアルエラーを繰り返している。
会社グループのチームワークとその会社の伝統・風土をどう折り合いつけるか。
このテーマは今後とも続くことであろう。
トップの現地化については別途私の経験談をお話ししたい。
(近藤哲夫)