第49話 見るということ - 歴史を観る眼 1 司馬遼太郎
2014年5月27日
司馬遼太郎の『韃靼疾風録』を久しぶりに再読した。面白い。
特に“あとがきにかえて -女真人来る去る”は彼の歴史観が素直に出ていて面白い。
これまでの彼の日本モノ、幕末新撰組、西郷と大久保の話、坂の上の雲の3人の話は彼の
歴史観+日本愛(?)の様なものがミックスされて、読む人を、特に日本人を感動させる。
しかし、海外モノは歴史観が素直に出ているのではないかと思い、再読した次第である。
“歴史を観る”とはどういうことか。私の様な技術者は良く解からないが、しかし“観る”
事を、仕事の一部にしているモノとして述べて見たい。
“観る”とは第23話で述べた様に、「真因」「本質」の発見の為に「眼光紙背に徹する程観る」のである。
“観る”ことのネライは「真因」「本質」を見抜くことにある。
具体的には、1644年に“清”が北京に入城して、1912年に滅亡するまで、何故長く統治可能出来たか?
なぜ“明”は滅んだか?等々の「本質」は何かを彼なりに説明している。
中国では漢族以外のいわゆる夷狄による中国統一はあの“元”ですら100年足らずである。
清は260年以上も続いている。また当時女真族は50~60万の人口しかないのに、何故
数億の漢族を支配することが出来たか?その理由については彼なりの説明がある。
面白かったのは、あるキリスト教の宣教師が書いた、「明の人々は、清の成立にほとんどの人が従った。
しかし、髪を剃られて弁髪(真ん中の髪だけ残す)にされることには多いに抵抗した」と。
自分のことになると反対か!
また、太平天国の乱(漢族が清朝に反抗)は現在のマルクス史観では、善玉が天国側、
悪玉は清朝側となり、どんなに素晴らしい清朝側の政治家でも評価されないとのこと。
善い、悪いをある一時代の政治で決めるということは何と不自由なことか!
これには私も同感!
司馬遼太郎はこれまでの一般的な史観に惑わされず、学会からも離れた位置取りをして、
自由な傍観者として歴史を観ていたのではないかと思う。
(近藤 哲夫)
第48話 原価低減-3 -現場に強い原価低減意識を持たせる-
2014年5月13日
「原価低減(CR)は“自分がコストの一部である”という認識があれば誰が、どの部門に
居ても、誰にでも出来る」
「特に現場は製造コストの大部分に携わっている。原価低減は我々現場しか出来ないと
強い気持ちでないと原価低減は出来ない。」
「間接の人々が原価低減をやらないのは、原価知識はあっても原価意識が不足しているからだ。」
以上は大野さんが日ごろ私共に教えていたことであった。
確かに製造部門は材料費、加工費の大半を押さえている。
この部門が強い意識を持たないと原価は下がらない。
では強い意識をどの様にして持たせるか? これが最大の要点であった。
結論として、
①ライン長は自分の担当現場の今日の商品別の直接原価注1を把握し、マトメテ、工場長に
報告する。直接原価低減の責任者はライン長とする。
②ライン長に対し、技術をサポートする集団として生産技術は本社東京に生産技術部を置
き、製造技術は各工場に技術員室としてまとめる。
③従来の月度の工場収支は従来通りとする。
以上の3項目を決めた。
①は直接原価をライン長が直接管理する。即ちその日の生産品目、生産数量、
使用投入原材料、品種別加工時間を把握し、品種別標準原価表によって、コストに換算し、
直接原価を算出した。初めの頃は72名の全ライン長は手計算をしたが、すぐにソフトが完成して、
ライン長はライン終了後15分以内に工場長に報告する様になった。
計算式は詳しくは別紙「日々収支」を見ていただければ幸いです。
ネライはライン長が自分のラインの直接原価を低減するのは自分であると認識することにある。
従来の経理は(日本中の殆どの会社の経理も同じだ!)総原価主義で、例えばある工程で
今日大幅な原価低減をしても、月間で原価トータルには余り影響せず、
従って経理が原価低減と騒いでも、数字上は余り表に出ず、製造現場は余り強い原価低減の
意識はなかった様に思う。
注1:商品別(1個当り)の直接原価とは
直接原価=材料費+加工費+その他の経費
・ライン長が管理するには、材料費と加工費とする。その他の経費は期中一定。
・材料費=主原料+副原料+部品+補材+廃棄
主たる管理対象は廃棄
・加工費=[原単位工数(1個当たり)×アワーレート]×生産数
アワーレートは当期一定。
最大の眼目は工数低減すれば原価が低減する。ことである。(実際の経理上の原価は
工数低減分の人員減がナイと減らない)
これがライン長のやる気を起こさせた。
アワーレートは期中一定とした。
参考までに4月1日のあるラインの1個当たり標準直接原価(A)は
A=標準原単位(材料費、加工費の過去のデータにより生産技術部が計算)
売上は ∑A
従って4月1日に原価低減が無ければ
4月1日の直接原価=∑A
従ってこのラインの損益=売上-直接原価
=∑A-∑A=0 となる。
②は原単位の修正、不良、ライン故障等、ライン長をサポートする集団として、生産技術部
と技術員室を置いた。生産技術部は主として新しい機械の設計、製作を担当した。例えれば
どの様なハサミがこの工程に良いかを担当し、技術員はそのハサミをどう使えば良いかを
担当する様にした。理想は両者が共に工場改善の為に協働することである。
生産技術者は第17話で話しをした通りにカタログエンジニアになってはナラナイ。
③は日本の企業会計制度上、総原価主義は仕方ないものであった。
従って、それはそのままにして、それでいてライン長にCR行動を取らせる為に、
従来の会計制度ではない新しいやり方を行った。
会社としては毎週各ライン長の利益を集計して、即ち、
あるライン長のある週の利益=∑日々の売上-∑日々の直接原価
∑日々の売上=∑日々の標準直接原価
故に 週の利益=∑(日々の標準直接原価-日々の実績原価)
この週の利益の順位を決めて(利益順にして)、上位を衝動の前に張り出す様にした。
その後、この「日々収支のシステム」については、上手くいった部分と、
そうでない不平不満が多く出た。それは利益順位の固定化によって、
上位者はより上級管理者に進み、下位の人々はそれによる不満で改善が余り進まなくなった。
(結果は必罰主義になった)
またシステムが現行の経理システムと乖離しているため、そちらの方から“冗長だ、ムダだ”
との意見があった。やはり原価低減は会社一体となって実践しなければならない。
またライン長に対しては絶えずトレーニングしていかねばならないことを強く感ずる。
(近藤 哲夫)
日々収支
1.日々収支は経理上の原価計算とは異なるものである。ライン管理者が自らの
ラインの日々の利益を計算し、何が良かったか、何が問題だったかを、ライン
担当者全員と話し合ってモチベーションを高め、ベクトルを合わせて改善し、
工場の利益を向上させるものである。
2.標準原価を設定し注1、それに基づいて、ライン管理者が毎日、ライン終了後損益
計算し注2、上司に報告する。
上司はそれを会社の生産責任者注3に報告する。
3.生産責任者は週次にまとめて、ライン管理者の週の利益の順序を発表する。
注1:この標準原価は経理上で言う総標準原価ではなく、そのライン製品Pのライン
の直接原価である。
直接原価=材料費+加工費+その他の経費
◎ライン管理者が管理するのは、当面
材料費 と
加工費 とする。
その他の経費は当面一定とする。
注2:計算は
◎材料費=主原料+副原料+部品+補材+廃棄
を計算する。
主、副原料、部品は標準原単位を使う。
補材(ハンダ、ノリ等)の管理も標準原単位を使い、毎日実績との差を計算する。
従って主として管理対象になるのは廃棄である。
「廃棄」は毎日計量する。そして改善を実施する。
◎加工費=原単位工数(例えば1個当り)×アワーレート
原単位工数は期首に決めた工数を使う。
工数改善すればするほど加工費が低減する仕組みにする。
(実際の原価はその人が居る限り減少しない)
アワーレートは当面一定にする。
◎ライン管理者は毎日ライン終了後20分以内に上司に報告する。
(実際は数値をインプットするだけである.)
注3:生産責任者は通常、常務又は専務クラスである。この人の積極性がこの
日々収支システムのレベルアップを図り、現場のモチベーションが向上する。
日々収支の実例
① 定義: 各ラインの今日の生産量によって、営業利益の数値をライン長がその日
のうちに掴む。
② 目的: 1.経営者意識を具体的に育て、明日の経営者を造る。
2.今日の損益は明日の改善の具体的なテーマ。
このテーマはあくまで将来の損益目標に向かっている。
ベクトルが合っているのである。
③ 仕組み:
項目 担当
1.各ラインの今日の実績の集計(品目毎) ライン長
材料費、加工時間
↓
2.予め決められた損益計算書(P/L)プログラム ライン長
に、生産量・材料費・加工時間を打ち込む。
(目標10分)
↓
3.各ラインのP/Lが完成
売上高 A 材料費 B(原料、副原料、部品) 売上総利益 C=A-B 加工費 D その他経費 E(当面一定) 営業利益 F=C-(D+E) |
4.評価:
項目 担当
1.今日のラインごとのP/Lが基準(標準) ライン長
(又はあるべき姿)と比較して、改善の 技術員
テーマを探る。
↓
2.ライン長に報告する。 技術員
↓
3.各ライン長はそれについてアクションプラン ライン長
を作り、日々改善を行う。
↓
4.改善結果がP/Lに直結する。 技術員
ライン長
各間接課長
これを毎日実行する。
④ 評価:
④-1: 材料費分析
材料費は一般に主材料費、副材料費、部品費、等に分類される。
ここでは主材料費について説明する。
今日の生産品 A の英産量を a とする。
A1個当たりの基準主材料費(主材料原単位)を Am とする。
今日の基準主材料費:As=a×Am ・・・・・(1)
今日の使用主材料費:Ar ・・・・・・・・・(2)
とするとその差:Ad=Ar-As ・・・・・・・(3)
◎ 日々収支のネライの1つは、この差Adを具体的に掴み改善活動をすぐ行うことである。
・ Adは一般にロス、立上り不良、不良の大小で変る。
・ Amの設定は新商品立上げ時と平常時では、20~30%立上り時が高い。
Amは一般的には商品企画で決まる。(重量×プライス)
このプライスは各社のポリシーに依る。
④-2: 加工費分析
商品Aの1個当たりの基準工数*×基準レート**=基準工数原単位(X)
とする。
今日のライン使用総労働時間***×基準レート=Y
とする。
その差 Z=Y-X
◎ 日々収支のもう1つのネライはZを0もしくはマイナスにする改善活動を
数値化することである。
基準工数*は一般に 正味工数×余裕率 で表す。
基準レート**は会社で決めるものである。
ライン使用総労働時間***とは今日ラインについたすべての人員(この人員
の設定は会社で決める)の会社在籍時間である。