第71話 失敗学の法則 -2
2015年4月28日
⑥「責任追及」と「原因究明」を分けろ
多くの日本の企業で失敗した場合、まずは叱責である、「責任追及」である。
「原因究明」のつもりがいつの間にか叱責、責任追及に変わってしまう。
最近は「原因究明」を第三者委員会に託すケースが多くなっているのは、
正に合理的方法である。叱責される人間はついつい本当のコトを言わなくなってしまう。
ましてそれが上司や第三者に影響がある場合は言わなくなるコトが多い。
分けるのは当然だ。
⑦「見えない関連(リンク)」を見ろ
自動車や大きな機械の設計を行う場合、大勢の技術者の協同作業となる場合が多い。
この場合、1つの設計変更が他の部品に影響する場合が数多く発生する。
これを畑村さんは「見えないリンク」と言っている。
私が生産技術部長の時、この部品を、どの機械で、どの様に生産するか、
正にクイズの様な図面を画いた技術者が居た。
自社の機械とその能力を知らないで設計したらしい。
トヨタでこの「見えないリンク」を解消するために、「大部屋」にチーフエンジニア以下
全設計者を入れた。
これによりコミュニケーションがより早くスムーズに行われた。
世の中ではこの「大部屋」が持てはやされたものである。
「見えないリンク」は間接部門でも数多く発生する。
ぜひ「大部屋」をやって戴きたいものである。
(中小企業でもこれを行うと効果は出ます)
⑧過度の経済性追求が技術を殺す
生産技術部は新車開発に際して必ず投資抑制と開発期間の短縮を約束させられていた。
投資抑制には社内製造部に治具の変更(新設ではなく旧治具を使う)を依頼し、外部への
金の流出を極力抑えた。
また開発期間の短縮は「大部屋化」により図面承認のスピードを高め、
特に問題のプレス 型図の進行は「見える化」を徹底し、
「時は金なり」を生産技術部300人に徹底したものである。
経済性追求は企業としては当然である。
しかし上から与えられた目標をどう判断するかは部長の責任であると思う。
多くの場合、与えられた目標をそのまま下に流しているのではないか。
そうなると技術員は委縮し、創造のためのアイデアも出なくなる。
「マニアル通りやるか」となると、正に畑村さんの言わんとする「技術を殺す」ことになる。
部長が会社目標の新のネライを把握し、自分の部下のCAPACITYとCAPABILITYを
きっちり掴むことにより、創造性の高いアイデアが生まれ、目標は達成出来る。
⑨「情報断絶」が諸悪の根源
自動車産業では「設計図」こそが最終計画で、そこに全ての
それに関する情報が盛り込まれ、それを企業は勿論、グループ全体で共有している。
例えばトヨタの例では、その図面に記入された「品名」「品番」(部品ナンバー)は全世界
共通である。それ故に設計変更は必要な部署全てに連絡される。
これをストップすると仕事にならない。
「情報断絶」が発生するのは人事異動時のミスで発生する場合が多い。
特に定年退職の場合の引き継ぎは問題が多い。
最近ではソフトウェアの改良の部分はやった本人しか分からない場合がある。
そのためにも多くの企業では定年後も数年を嘱託または顧問として在籍させる様になった。
⑩「潜在失敗」を顕在化せよ
ヒューマンエラーを織り込んだシステム造りは必要だが、実際には膨大な時間が必要に
なるため、そのシステム導入を躊躇したり、見送っている組織も少なくない。
そんな中で畑村さんはJR東日本が8000億円を投じて、このシステム造りを行った、
と言っている。
その結果1987年376件あった鉄道運転事故が、1999年には142件と激減し、
特に多かった踏切事故は80%低減した。
運転事故の原因の多くは“運転手による信号の見落とし”である。
従来はATS(AUTOMATIC TRAIN STOP)を導入していたが、
これは数百メートル手前で自働でブザーが鳴り、5秒間運転手が何もしないと非常ブレーキが掛かり、
列車が止まる仕組みである。
それでも衝突事故は減らなかった。
運転手が仮に信号を見落としても、なお列車を進めようとしたら、
自動的に停止するシステム、即ちATC(AUTOMATIC TRAIN CONTROL)を導入することにした。
つまり「人間はミスをするものだ」、仮にミスをしても止まるシステムである。
効果は前述の通りである。
その他面白いものがいくつかあるが、私なりにまとめると、
「人間はミスをするものだ」
「しかし誰もミスをしようと思ってミスはしていない」
「情報断絶」こそ諸悪の根源
これらの事を肝に銘じて
「柔軟」で「使いやすく」かつ「変更し易い」
仕組み造りを行いましょう。
(近藤 哲夫)
第70話 失敗学の法則 -1
2015年4月14日
第69話で話したように畑村教授の「危険不可視社会」を読んで、教授の本「失敗学」
について改めて読んでみて十分今日2015年にも通用すると感じた。
「失敗学の法則」(文芸春秋)は2002年に出版されたものである。
詳しくは直に本を見ていただくとして、32項目の中で私なりに気に行った項目を取りだ
してみた。
失敗学とは(定義)
人間に関わった一つの行為の結果が望ましくない、もしくは期待しないものになること。
①「逆演算」で失敗の《からくり》がわかる
目に見える「結果」から目に見えない「原因」を辿っていくことを失敗学では
「逆演算」と言っている。
一般には 結果→原因 と短絡するが、失敗学では次のステップを取る。
〈1〉失敗学では原因を2つに分けて、即ち「要因」と「からくり」に分けて考える。
従って失敗の構造は
要因 → からくり → 原因
と考える。
〈2〉「からくり」はあくまでの仮説である。
〈3〉「からくり」の構造が明らかになったら、別の要因を入れてシミュレートしてみる。
〈4〉「要因」「からくり」「結果」を一般化し予測につなげる。
これを読んだ時、5WHY1Hとどう異なるか、当時は考え込んだものである。
トヨタの5WHY1Hは、
結果 → 1回目のWHY → 1次原因 → 2回目のWHY →2次原因 →・・・・
・・・・ 5回目のWHY → 5次原因(真因) → HOW(何をするか、対策)
畑村教授は1次、2次・・・原因を「要因」と呼び、この思考プロセス(仮説)を
「からくり」と呼べば、HOWが〈第4ステップ〉になる、と今日では考えられる。
②失敗は確率現象である
ここでは1941年アメリカのH・W・ハインリッヒによって発見された
「ハインリッヒの法則」を失敗にも適用している。
この法則は労働災害についての法則で下記の通りである。
「1件の重大災害の裏には29件のかすり傷程度の軽微な災害があって、更にその後ろ
には、ヒヤリ・ハットの冷や汗が流れる事例が300件も潜んでいる」
即ち重大災害の発生の確率は1/330である。
正に氷山の一角である。
「ハインリッヒの法則」は重大災害の発生確率は小さいが、発生したら膨大な損害を被る、
だからこれを防止するためにヒヤリ・ハットから注意し、安全対策を行いなさい、という
意味である。
失敗も同様、小さい失敗も見逃さず、丁寧に処理し、大きい失敗を未然に防ぐことをすす
めている。
③「仮想演習」が全てを決める
シミュレーションをすることはあらゆる改善、革新において必ず行うことである。
それでも失敗する。
私自身も過去45年の改善の歴史でまあまあ成功が100とすれば失敗は2000以上
あった。
特に30 歳代から40歳代にかけての改善はいくらやっても失敗の連続であった。
年を経るにつれて、シミュレーションも少しは上手くなった様だ。
シミュレーションを行う場合、環境条件の設定、変動因子の設定などを注意する必要があ
る。初めの頃はこれらの条件、因子を自分なりに適切に決めたつもりが、どれも不適切で
あった。
特に現場改善の場合、頭でのシミュレーションに加え必ず現地現物で、自分の目で確認
してトライすることをおすすめする。
④質的変化を見落とすな
盛者必衰、世の中のあらゆる産業はこの言葉の通り、成長し衰退する。
萌芽期→発展期→成長期→衰退期→死 を繰り返す。
成長期には社会的重要性は高まるが、衰退期には社会的重要度は相当低下するが、企業内
の人々は成長期と同様の重要度があると錯覚する。この傲慢さが、失敗への対応が手遅れ
になる。過去の有名食品メーカーのクレーム対応が問題になったのは正にこれである。
⑤全てのエラーはヒューマンエラーである
と言うのはシステムを造ったのも人間、機械を造ったのも人間、保全するのも全て人間
である。どんな完璧な半導体を造ってもコンピューターの誤作動は発生する。
これをシステムエラーとあたかもシステムの間違いと勘違いするなかれ、そのシステムを
造ったのは人間だから。
また誤動作をする人間、ミスをする人間をシカレば済むものではない。
訓練マニュアル、訓練方法を見直すチャンスである。例えばとっさの場合の訓練方法が
これで良いのかを反省する良い機会でもある。
大野さんは言った、
作業者はミスをしようとしてミスする人はいない。
(近藤 哲夫)